ダブルシュウ春ツアー2009
SUARA SANAのホーメィ歌手岡山守治くんと意気投合し、「ダブルシュウ」を名乗ってツアーをしやう、といふ冗談のやうな企画が実現した。
その宇宙的なツアーの記録
2月26日(木)大阪コモンカフェ with ばきりノす
ワシは電車での旅を好むが、守治くんはバス旅を好む。彼がコーディネイトしてくれた大阪行きのバスは、ワシが知ってる同ルートより、はるかに安い!。ヌー、世の中にはまだあるぞ、未開の域が・・・!。
スキンヘッドの中年と、長髪の大男の二人組は、バスの中でもひときわ目立つ。道すがらお互いの音楽を演り始めたきっかけとか、その辺を語り合ってゐるうちに「シュウさん」「シュウちゃん」と呼び合うやうになる。約6時間かかって大阪駅に着。
まづは腹ごしらえ!と云ふ事で、梅田駅地下街の鉄板焼屋にてモダン焼きを食し、早速ビールで乾杯。会場入りまでには時間があるので、先に今夜の宿となるゲストハウスへ行く。中崎町のカフェ「天人(あまんと)」が多角経営してゐる中のひとつ、ゲストハウス天人。古民家を改造して(てゆーかほぼそのまま)ゲストハウスにしてある。けふはワシらだけが泊まり人のやう。鍵を預かり、荷物を置き、てんでに寛ぐ。口コミでしか知りやうのないこのスペース。すごいなぁ。
聞けばシュウちゃんは、音楽を演るやうになる前から、自転車で滋賀県や北海道に行ったりしてたホンマもんの「旅人」のやうだ。これに比べりゃワシもまだ初心者やな。世の中はまだ未開の分野に満ちてゐる。
さて、シュウちゃんが寝始めたので、ワシはひとり近所を散策。この辺りは、戦災を免れた一角らしく、100年前の家並みが未だに残る、まぁワシの大好きなベクトルの町。天人に触発されて、この町はいま、若い人が共同で経営するカフェだらけ、なんだとか。けふのライヴ会場となるコモンカフェもさういふ店のひとつ。
会場入りするとけふの対バン「ばきりノす」のひとり、ガキちゃんが来てゐた。ワシらがリハをしてゐると、もう一人のラスちゃんも来る。ふたりとも、アー写で見るよりさらに可愛い娘さん。ばきりノすは女声ふたりによる、まぁアカペラっちゃアカペラなんだが、普通のアカペラとは全然違う。このオリジナリティが何処から来るのか、訊いてみたらブルガリアンヴォイスなのだとか。ははぁ納得。この二人とワシら二人のセッションも演らう、といふ話になり、こらぁオモロいライヴになりさうです。
さてライヴはシュウちゃんのソロからスタート。口琴、ホーメィ、ギター、エフェクトを駆使しての、相変わらずすごい「倍音宇宙」。が、本人は全然納得いかんパフォーマンスだったやうで、終演後しきりに悔しがる。ん〜〜、さう云へば、なんかテンションを持て余してゐる、といふかんぢではあった。自分が伝わらぬもどかしさ、は、つい先日、ワシがSUARA SANAとの共演で感じたものだ。ん〜分かる。
優れた女性音楽家の常で、ばきりノすの二人も、いざ本番、となるとすこん、とモードに入る。さっきまでとは別人のやうだ。これでまだ二人とも若いのだ。世の中、まだまだ「怪のモノ」はいっぱいゐるのだ。なんかねぇ、つくづく自分が狭い世界に居ることを思ふ。ん〜〜〜〜〜。
参番手にワシのソロ。いつものユルいパタン。激しめの曲を一切やらずにテレテレ演る。けふは良いチカラの抜け具合。途中からシュウちゃんを呼んでいよいよ「ダブルシュウ」。まづワシの曲にホーメィや口琴で入ってもらひ、その他は何も決めずにほぼ即興で演る。「月のチャクラ」を演りたくなったので、シュウちゃんにキィだけ伝え、いきなり演る。これが見事にハマり、その後のこのツアーのハイライトナンバーとなった。インド音楽をかじったヒト同志でしか分からぬ『あれ、ヤマンでしょ?』『その通り!』といふ会話。分からんでしょう?へへへ。
ひとまづダブルシュウとしては大成功。その後の、ばきりノすとの4声即興セッションも素晴らしい出来だった。
終演後、4人での談話も楽しい。ホンマに可愛いばきりノすのふたり。ダブルシュウ初日、上々の滑り出しである。
昨日は遅くまで酒を呑みながら語り合った。シュウちゃん、身体がデカいから、と云ふのもあるが良く喰ひ、良く呑む。
けふはオフなので別行動。昼前にゲストハウスを引き払いつつ別れ、ワシは大阪の友人に会ひ、シュウちゃんは京都の友人を訪ねる、といふ。昨日は汗ばむ程の陽気だった大阪、けふはものっそい寒い!。なんだこの寒暖の差は?。
だいどう豊里、といふエェかんぢの町まで地下鉄を乗り継ぎ、もと生徒小林大介の住まいへ。ここも大介の友人でバンド仲間ショータローと、共通の友人Sちゃんが暮らし、それぞれの彼女がほぼ毎日ゐる、といふ、まぁゲストハウスのやうな家だ。かういふ「開かれた」感は、とても良いな、と思ふ。
しばらくみんなで喋った後、大介とともに「串揚げ」を喰ひに行く。ショータロー推薦の「川原田」といふお店。全品¥100で衣うすく、あっさりと美味い。甘口辛口弐種のソースもぢつに妙なる味。大介とふたりでビール呑みながら夢中で喰らふ。結構喰ってビール弐杯呑んで¥2000ちょい。
ここ2〜3年の旅でようやく、かういふ「精神的余裕」が持てるやうになった。それまでは、全く知り合いも居らぬ処に、自分がコンタクトを取り、ブッキングをお願いし、独りで行って独りがライヴを演り、独りで宿に帰って寝る、といふ事すら、チャレンヂだった。他人は不思議がるが、とてもぢゃないが物見遊山的なゆとりは全く無かったよぅ。まぁ単にワシに、遊び心が欠けてゐる、といふだけかもしれんが・・・。
さて串揚げもタコ焼きも喰って満足した。寒いし、で、かなり早めに寝る事にす。
朝起きると、もう大介もショータローも居らず、バンド仲間のYちゃんが洗濯をしてゐる。ワシは朝飯を喰ひに行ったりして昼まで時間を潰す。時刻表で割り出した電車の時間に合わせ、大阪駅まで。駅の立ち喰ひ蕎麦(ごまかつをたっぷり)で昼飯。滋賀は近江八幡行きの電車に乗る。
滋賀県近江八幡。初めて行く街だ。琵琶湖、鮒寿司、くらいしか知ってるキーワードがない。さてどーなることやら、と考へてゐると、京都に差し掛かった時、シュウちゃんから『◎◎時近江八幡着のに乗ったよ』といふ連絡。あぁ、同じ電車のどっかに居るんだらう。
駅で合流。シュウちゃん、京都で良い壱日を過ごした模様。旅なれたもんどうし、この距離感が良いねぇ。
駅には今回のイベントの主催、7hz tribe archstraのカゲロウ君が迎えに来てくれてゐた。ワシは初対面。車に乗せてもらひ、会場の酒遊館へ。この酒遊館、古い酒蔵を改装して、レストラン兼イベントスペースとして使ってゐる。大阪の天人と云ひ、古い建物に縁のあるツアーやな。
ワシもシュウちゃんも滋賀で演るのは初めてで、共演の7hz tribe〜も初。客層も全く予測がつかぬ、と云ふ。まぁいつもの事よ、と、リハの時間まで、恒例の散歩。
水郷や八幡さまなどを巡って、小壱時間くらいウロウロす。ハー、割と観光街なのね。近江兄弟社(メンタームの)があった。おぉ近江、か。ワシは滋賀の名物「鮒寿司」が好きで、土産に買うかどーか迷ふ。これ、滋賀県民でも喰へない人が多いらしい。ものすごい癖のある喰ひものなのだ。ちなみにけふの出演者関係者は全員「食べれない」さうだ。ワシが「好き」だと云ふと、とても不思議さうだった。
さて7hz tribeのサイケデリックなステージでライヴが始まる。民家が近いので、あんまり遅くまでデカい音は出せんらしく、トップバッター。悪いね。演り足らんかったんぢゃないかなぁ?。
弐番手のシュウちゃんのソロ。一昨日の不達成感を見事に払拭する、凄まじいライヴだ。天然リバーブ満載の酒蔵に倍音の嵐が炸裂する。お客さんもシュウちゃんもノリに乗りまくり、だいぶ長時間演ってゐる。ウ〜この後でワシかよ、演りにくいなぁ。
休憩、といふ事もあって、ワシがステージに上がってセッティングし終わっても、会場には人が居らん、といふ。司会者が居る訳でもないからどーしやうもない。まぁしょーがないか、と何も云わずに始めてみる。冒頭の即興を練り上げてゐると人も帰って来て、ざわめきも静まって来る。あぁよかった。
終始、脱力を心掛け、良いソロが出来た。30分くらい演った処でシュウちゃんを呼び「ダブルシュウ」。
これがまた大阪よりさらに「深化」したデュオだった。どのくらい演ったんかな?。時間の関係でアンコールは出来んかったが、演ってるワシらが『ここまで出来たから良いだらう』といふ次元まで行けてゐた。自分らだけの思い込みではない証拠に、『二人で録ったCDは売ってないのか?』といふ問い合わせが殺到。これは成功以外のなんでもないでせう?。
打ち上げはそのまま酒遊館のレストランを使わせて頂き、出演者関係者ファンの人達、も交えて。なんか若くて良い仲間がいっぱい揃ってる町なんだな。うらやましいぜ。一昨日より「跳べた」シュウちゃんは打ち上げでも大ハシャギ。ワシは酒遊館の館長さんに『リチャード・シンクレア、好きぢゃないですか?』と云はれ、ハと気付く。なるほど、ワシはあの人のニッチに似た活動をしてゐるんだな、と思ふ(知らん人は調べてね:リチャード・シンクレア)。
けふは7hz tribe〜のハング鍵盤その他奏者ヒビキくんのうちにお世話になる。綺麗で広いワンルームに寝袋で。だが床暖房が利いてゐて、昨日のゲストハウスより快適かも。ここで生まれて初めて「シーシャ(水タバコ)」を御馳走になる。訝しく思ふ向きもあらうが、シーシャはれっきとした嗜好品で完全なリーガル。誤解なきやうに。
こ・れ・が・おいしいの!。ノンスモーカーのワシでも何の抵抗もなく吸える。空気を吸ってるやうなかんぢだが、煙りを吐く時になんとも云へぬ良〜〜ぃにほひと味が鼻に抜けるのだ。へぇ〜〜〜、こんなに美味いのか。人が吸ってるにほひも全然気にならんし、これは好き。水で濾過されるので、ニコチンもタールもゼロに近いまで減るんださうな。中東の国々では、おっさんがチャイを呑みながら、これを日がな壱日づーっと吸ってるんだって。
豊かで暖かい、滋賀は近江八幡の夜。
暖かく快適なヒビキくん宅での一夜が明け、いよいよけふは千秋楽。シュウちゃんの体調がおかしい。「風邪ひいたみたい」といふが、どーもその症状は「花粉症」のやうな・・・。道すがら、酷い花粉症のワシに「気持ちが分からん」と云ってたが、遂にキミもお仲間かね!?。
ヒビキ君に駅まで車で送ってもらふ。何から何までありがとう。お礼としちゃ安いがCDを弐枚プレゼントす。
名古屋行きの電車に乗り、約2時間で名古屋に着。名古屋と来れば朋友鎌田麻実。かつて何度も夫婦と間違われ、今なをその性差を越えた友情が続く鍵盤弾きである。彼女が駅まで迎えに来て、ワシとシュウちゃんを車で運んでくれる。まづ腹ごしらへに薬膳ラーメン。何が入ってるのか分からんが、とにかく辛くて美味い。飯の後は、体調の優れないシュウちゃんを、先に宿に送り届ける。けふの宿はワシの御用達のサウナ。
しばらく寝る、といふシュウちゃんを宿に残し、ワシはマミとデート。たまたま入った珈琲屋が洒落てゐた。カウンターの正面にづらっと珈琲カップが並んでゐて、客は好きなのを選べる、といふ。ワシは全然わからんのだが、マミによれば全部かなりの値打ちもののカップださう。ワシはグリーンの綺麗なやつを所望。常連の人はもうカップが決まってるらしく、なんも云はなくても好みのカップで飲めるやうだ。洒落てるねぇ。
名古屋にはかういふ「成熟した文化」のやうなものがしっかりあって、それがワシがこの街を好きな理由でもある。勿論、今風のスタバやドトルもある。が、かういふ古いスタイルの純粋な喫茶店が、ちゃんとそれと同居できてゐる、といふのは、文化水準が高い証拠だらう。こんな店、近所にあったら絶対常連になるで。
さて、名古屋には何度も来てゐるが、けふの会場「ストレガ」は初めての場所。15人も入ったらいっぱいになっちまふやうな小さな店だが、ここに15人お客さんが集まってくれた。このツアーはこれまでづっとシュウちゃんが先行だったが、けふはワシから始める。まぁいつものかんぢ。良いテンションで演れる。やっぱり名古屋は相性が良いのか。
続いてのシュウちゃんのソロ。これが凄かった。此所数日見た中では明らかにベストな出来。改めてこの若いパフォーマ−の、次元の高さを思ひ知らされる。体調はほぼ最悪に近い、と云ふ事だったが、そのせいで力みが抜けてゐるせいだらう。会場は完全にその宇宙に包まれてゐた。
昨日、アゲアゲのライヴでかなり調子良く演ってゐたシュウちゃんだが、途中帰って行った人が何人かゐた事を、ぢつは気にしてゐた。『シュウさん、アレで良かったんかなぁ?』とか、なんとも可愛い事を云ふヤツよ、と思った。確かに昨日のは、肩を組んで一緒に踊りの輪に引き込む、といふかんぢのライヴだった。しかしけふのシュウちゃんは、そっと抱き込んで静かに連れてってくれる、といふかんぢ。まぁ好き好きだらうけど、昨日これをやってゐたら帰る人は居なかったンぢゃないか?、とか思ふ。恐るべし岡山守治。
その流れをもらった二人のデュオも、奇跡的な広がりを見せる素晴らしいものとなった。お互いの呼吸も意識も完全にシンクロし、全てのチカラを出し合える。間違いなくあそこに宇宙が存在してゐた。アンコールが2回も来る。世界中の人に見てもらひたいライヴだった。
シュウちゃん、感極まって涙ぐんでゐる。ホンマに可愛いヤツだ。10歳も年下だが、色んな面で兄貴のやうにかんぢる事も多い。それなのに「いっぱい勉強させてくれてありがとう」とハグされると、ワシまでほろっと来てしまったよ(笑)。こちらこそありがとう。キミと会えて、かうして一緒に旅が出来て、ホンマに良かった。
シュウちゃんは先に宿に帰り、ワシは独りで店で呑む。
今回、またひとつ大きなチカラを得たやうな気がする。正直、これほど自由に、力強く音に集中出来たのは、久しぶりのやうな気がす。そして、ここにニッチがある限り、ワシは「梶山シュウ」を演り続けられる気がす。便利なベーシストでも、独裁的リーダーでも、孤独なパフォーマーでもなく、自然な「梶山シュウ」が。
うん。
これから、かな。
これから、だらうな。